会った

さぁっと、体の温度が急激に冷めていく感じを、5年ぶりに感じた。23歳を目前にしたある日だった。

 

改札の前に、私の面影ある顔をした少女とあの女が立っている。

「こんにちは」

ぎこち無い挨拶で、2人の元へ歩いていった。

久しぶり、元気ぃ?とあちらも嘘の明るい声をかけてきた。返事をすると、ずっと会いたかったよ、ずっと…と言ってあの女はいきなり泣き出した。

シワが増えた気がする目元から、どんどん涙が溢れていく。その水量に合わせて、東京生活で柔らかくなっていた私の心が冷えて固まっていく。油粘土みたいなしっとり、ひんやりとした弾力のある塊から、思わず手を離したくなるような大きな氷へと変わっていくまでに、ほんの数秒しか要らなかった。

そう、私の心は豆腐やガラスでは無いのだ。冷たい粘土。氷になるときもある。バラバラになっても殴っても、傷をつけても、集めてコネコネしたり、冷やすことで、再形成される。

それは再形成の仕方を知っているからだが。そういう 保ち方 を育むきっかけを与えて来たのはきっとあの女だから、色んな意味で壊す本人へ感謝をしておくべきなのだろうか。

ひとしきり泣いて落ち着いたあの女は目をニコっとさせて近況を聞いてきた。少ない言葉で返事をする私に、その声を久しぶりに聞いたよぉと言ってまた泣き出した。

隣に立っている少女は沈黙している。まるで「この時間」を予想していたようだ。

この後少女と東京案内の約束をしていたので、あの女とはおそらく10分程会って解散した。

「じゃあまたね。元気でね。何かあったら連絡してね。嫌かもしれないけど、たまには帰ってきてね。」

そう言ってあの女は反対のホームへと歩き出した。会釈をすることしか出来なかった。

 

「この時間」私は17歳のままだった。心の冷え方が完全にそうだった。悔しい。

とても悔しい。私はあの女と離れて、歳をとって、沢山の人と知り合って様々なことを知って見て聞いて経験して、恋愛もして、やりたいことも続けて、大人になった気がしていた。離れていても前述のブログの通り、何度もあの女について考え事はしていたし、もし会った時のシミュレーションはしていたつもりだった。

でも何も時間は進んでなかった。

全然だめだったんだ、わたし。

まるで私が反抗期を拗らせて出て行った不良娘ってだけみたいじゃないか。泣いて優しい言葉をかけてきて、出て行かれた側の悲しさを存分に押し付けてきた。そこまでは予想出来ていた。私が1番悔しいのは、それに対して私は、拗ねているような少女丸出しで小さな声で、ボソボソと少ない言葉しか返せなかったことだ。完全にあの女のペースに飲み込まれてしまった。恥ずかしい。この5年間で随分柔らかくなっていた粘土の心を、活かせなかった。

あの女と私は、私が家出をした日付で時が止まっていた。そりゃあそうだ。距離を置くという事しかしていない。私達の関係の溝において、まだ何も進んでいない。

 



 

数日経って今、考えている。

あの女に勝つにはどうしたらいいか。今のところわかるのは、「諦める」ことだ。私には難しい課題である。あの女と真面目にぶつかろうとするから少女に戻ってしまうのだ。諦めて、あの女を こういう女 と思えたら、返事の仕方から変わってくるだろう。

あの女のペースに乗らず、期待せずに。

これからも親子ごっこをする気は無いが、少女を卒業して娘を演じることができたら、諦めの成功だと思う。

娘を演じに、そのうち戦場へ帰る予定だ。

私は少女の自分を守りたいし殺したい。自分を迎えに行かなきゃいけない。

 

この日心は氷になってしまったが、私の良いところで、それはいずれ溶けて粘土に戻る。今は粘土になって文章を書いている。

今回はこれがわかってよかった。

まだまだ私は戦えるし、前に進める。