新しいお父さんは「元」既婚者だった様だ。
家を出たくて適当に大学へ進学した。岐阜県、ど田舎の寮でアルバイトをしながら大学生活を送っていた。
兄が鬱病と診断されたという話を聞いた。母は仕事で忙しく、兄の面倒を見れるのは自分しかいなかった。大学を辞め、地元へ帰った。
兄が少し離れたパチンコ屋でアルバイトを始めた。家では見せないような明るい顔をしていた。鬱病を聞きつけた母がバイトを辞めさせ実家に連れ戻し、「自宅療養」をさせる。
兄が自宅の2階から飛び降りた。腰から背中を骨折。普通の病院に入院するも、コルセットを自らカッターで切り病院を脱走。見つかったのは近所のパチンコ屋であった。
兄が精神病院へ入院。閉鎖病棟。
母と母の旦那さんと宇都宮へ出稼ぎへ行く。小さなアパートを借り、3人暮らし。あちこちで母が働き先に文句をぶつけ、一緒に働いていた自分も仕事を辞めさせられた。
兄が退院。
母達との生活に耐えきれず地元へ帰るも、兄との生活が始まる。
職場に「お金を貸してほしい」と兄から電話がかかってくる。仕事中である為それを断り家に帰ると、腕から血を流した兄が待っていた。お金を貸すとパチンコをしたり酒を飲んだりの日々が続く。返ってくる宛はない。
兄が部屋から出てこないのは珍しくない事であったが、2,3日、4日経っても一歩も出てくる気配がない。それどころか音すら聞こえない。
皆、薄々気付いていた、「ああ、この戸を開ければ....」
開けた。案の定、ピクリとも動かない兄が居た。処方されていた睡眠薬の空や酒の空き瓶が散らかっていた。
救急車。母が嫌がった。近所で知られてしまう。「あの家の長男が、とうとう....」ご近所で噂話になってしまう。それでなくてもうちは浮いている。当たり前だ。
兄を、自分たちで病院へ連れていった。
もう遅かった。ひどく怒られた。自分が扉を開けた時、まだ心臓は止まっていなかったのだろうか。母が、泣いていた。
兄が書き記していたノートがあった。
女王様は母。その家来が私。自分は奴隷だと。女王にできた新しい旦那も敵だと。家来の私も、。
仕事を転々とした。母はとっくに水商売を辞め、建具屋だった父が建てた家を売った。
ローンを組み、母達がふたりで暮らす小さな家を建てた。
6年間付き合った男性と結婚をした。女の子がひとり生まれた。田舎の団地で3人暮らし。旦那はトラック運転手や廃品回収、汗水流して働いてくれた。しかしたまに残業を家に持ち帰ることもあり、子供が邪魔をすると癇癪を起こして叱った。子供の教育についてや、そのおっとりとしたズボラな性格からか何度か仕事をクビになったりしていることについてや、度々喧嘩をするようになった。
時々自分が手をあげられることもあり、家の冷蔵庫の面がが大きく凹んでいることを子供に聞かれた。誤魔化せず夫の話をしたことがあった。
「お父さん怒って早くお仕事いっちゃったよ。」
それ以上 子供は何も聞いてこなかった。
夫が仕事を転々としているうちに、通帳の残高も段々すり減っていった。
3年住んだ団地を離れ、隣の市で小さなアパートを借りた。
子供がひとりでは可哀想、きょうだいを産んであげたいと夫にお願いをした。
1年後、夫の実家へ住まわせてもらうことになった。嫁姑関係が始まった。
夫の両親と自分の親が何度か交流をしてみたものの喧嘩を繰り返し、「あの娘はああいう家庭で育ったから....」と言われ自分の居場所が無くなった。肩身の狭い暮らしが続いた。
2人目の子供が産まれた。女の子だった。
夫の両親とは仲良くなれず、それが原因で夫との喧嘩も日に日に増えた。
上の子が小学校に上がるタイミングを見計らい、学校の近くにおんぼろアパートを借りた。1ヵ月かけて こっそりこっそり見つからないように荷物を運んだ。
保育園卒園後、すぐに夫に話しアパート生活を再スタートさせた。
生まれて間もない下の子のために仕事もできず、夫の収入で生活をしていた。
夫の収入で生活はしているが、夫が家に帰ってくる頻度は少ない。会わない月もあった。
夫は仕事が終わったらまっすぐ実家へ帰ったり、友人宅をふらふらしたり、何をしていたかは探らないが あまり帰ってこないでほしいとお願いした。
毎月夫の給料日翌朝 ポストに「給料」とかかれた封筒を入れてもらっていた。数万円。ここから生活費、学校の集金、育児費用、全てを賄わなければならなかった。
夫が家に帰ってくると自分は過呼吸を起こした。
上の子を連れてドライブへ出かけたりしていたようだが、正直あまり連れて行って欲しくなかった。もう2度と子供と会えないような気がした。
おんぼろアパートがカビの巣窟で、下の子は見事に喘息持ちの肺炎にかかり何度か入退院を繰り返した。
そんな生活が1年半続き、生活の限界を知った。
「離婚」という決意をした。
子供を連れ何度も役場へ通った。
数年間仕事をしていなかった自分の貯金も、限界生活で底を尽きていた。宛もなく、お金もなく、渋々実家へ帰った。
築数年の新しい実家。完全に2人サイズの一戸建て。ふたりの老後を思って建てられた家に自分は突然子供を2人連れて帰ってきた。
「自分の家だと思うな」
そう母親に言われながらも2階を一部屋借り、なんとか生活を始めた。戸籍、家族とは言えないと言われ、両親とは同居人という形で落ち着いた。
元々母親と仲が良かったわけでも無い為、家族の会話も少なく、5人家族とは思えない静かな毎日。ただただ下の子の鳴き声が響く。上の子はしっかりしているがまだ子供で、自分が叱ることもあったが、大抵母が叱った。ぶたれたり、夜 裸足で外へ閉め出されていた。自分の幼い頃と重なった。
自分はなんとか仕事を見つけ、家にお金を少し入れられるようになり、この家でやや息をすることが出来るようになった。